月下-今宵は-
 家族が一つになってもうずいぶん時が経った。
 今夜泊まる町はアルカパ。
 久々に合ったフローラはアンディの嫁として輝いていた。
 それを見てリュカもビアンカも心底安心した。幸せになっていて良かったと。
 更に子供まで出来たらしいというおめでたな報せを知ることも出来た。
 ティミーとポピーより、2つ3つ下の男の子。フローラのストレートな青髪を引き継いで、アンディのちょっとドジなところも引き継いでいる男の子。名前はランジュといった。
 今まで会わなかった分の溝(みぞ)を埋める話を、夜遅くまでしてしまった。
 泊まってと誘われたが、宿を既にとっていることを思い出した。
 
「僕真ん中ぁ!」
「ちょっと、一人だけずるいよお兄ちゃんっ」
「こらこら。二人とも真ん中でいいじゃないか」
 リュカが苦笑しながら子供達のベッドの取り合いを止めさせる。
 大きなベッド。ダブルより大きい。アルカパの主人が部屋を紹介するときニヤけていた理由が何となくリュカにわかってしまった。
「さ、今日はもう寝なさい。明日・・・はようやく行くのだから」
「・・・魔界だね」
 ポピーが急に神妙な顔つきになって言った。
「んなもん。おばあちゃんを助けるためさ。僕の剣で蹴散らしてやるよ!」
 ティミーがベッドの上で飛び跳ねながら誓う。ベッドの上で落ち着きもなくはねる子供が、伝説の勇者だとは思えないが。
「ん。ティミーがそう言ってくれるとありがたいな」
 リュカはベッドに腰をかけた。隣には同じように座って、足をぶらぶらさせているポピーがいた。
「お父さん」とポピーが呟いた。
「ん?」リュカはポピーに呼ばれて返事をする。「わたしだって、魔法で蹴散らしてやれるもん」
「え?」リュカは自分の耳を疑った。
「おやすみ」
 膨れっ面のままポピーは布団のままにもぐる。ティミーはそれを見て肩をすくめた。
「僕も先に寝るよ。おやすみ、お父さん」
「おやすみ。明かり消しとくよ」
「うん」
 父親らしい笑顔でリュカは言った。もちろん上辺で。
 リュカにはなぜポピーがあんなことを言ったのかわからなかった。魔物と仲良くすることが目標の彼女が、なぜ真逆のことを言ったのかを。
 ティミーが布団に入ったのを確認し枕元の蝋燭を消した。辺りは月と漆黒の空が抱く無数の星達の明かりだけになった。
 ベッドから腰を上げ、静かに数歩先の二人掛けのソファの左端にその腰をまた下ろす。結構硬いソファで体があまり沈むことはない。
 リュカはしばらくさっきのことについて思案していた。耳に入る音は子供達が早くも出している寝息と風呂場からのシャワーの音。
 何か冷たいもの欲しいな。
 リュカはまた腰を上げた。冷水が入った水差しとガラスのコップを持ってソファにどっしりと座る。
 目の前には小さな50cm四方の小さなテーブルがあり、その上にそれらを乗せた。
 コップに水を入れるために水差しを逆さにすると数個の氷の音がする。子供を起こさせまいと若干ビクビクしながらも、コップに着実に水は入っていく。
 水差しをまたビクビクしながら正位置に戻し、無意識に溜め息をついた。
 水を飲むと口から食道管、胃へと着実に冷たい液体が浸透していく。
 落ち着いた。
「あら、リュカ。電気消してたからもう寝ちゃったのかと思った」
「ビアンカ」
 いつも一つに結ってあるはずの髪の毛は今は風呂上りで下ろしてある。リュカはいつもとは見慣れないビアンカに思わず顔を赤らめてしまった。
「ん・・・ちょっと寝れないんだ」色んな理由で。
「まあ、明日から・・・だからね」
 ビアンカは哀愁帯びた口調で話した。肩に掛かっているタオルの両端を両手で握った。
「でも子供たちは寝かせたよ」
 リュカがそういうと、二人ともベッドに視線を泳がせた。ベッドから規則正しい寝息が聞こえた。二人は顔をあわせて微笑する。子供は可愛いなぁ。
「ね、隣いい?」
「いいよ」
「ありがとう」
 ものすごく端的な言葉だが、リュカもビアンカもこの会話だけでも満たされた。
 月と星だけという光源が冷たい夜を想像させる。逆に暖かい夜も想像することが出来る
 ずっとコップを握っていたリュカは自分の手元を見てふと思い出した。
「あ、コップ持ってくるよ」自分の分しかないということに。
「いえ、いいのよ。わたしが持ってくる」
 まだソファに座っていなかったビアンカが、思わず気圧されたリュカを置いてさっさとコップを取りに行った。
 適わないな。リュカは自嘲する。
 ビアンカはいつも明るくて行動が早くて、ついのんびりしがちなリュカをいつもリードしてきた。あの子供の頃のレヌール城だって、成人して出会ってからだって。敵わないなと。でもだからって悔しいとは思わない。ビアンカはビアンカ、リュカはリュカ。
「よっと」急にソファが右側に少し沈む。
「わわ」
 リュカは熟考(じゅっこう)をしていて気づかなかった。もう既に隣にビアンカがいて心持ち脈が早くなる。
「わ、大丈夫?もう、リュカったら。しっかりしてよね。ソファからズレ落ちて子供たちが起きたなんて洒落になんないじゃない」あれだけ慎重にリュカが入れた水を、ビアンカはあっさり入れた。肝が据わってるというべきか、それでもいつもより大胆ではない。
「はは・・・ごめんごめん」
 一括(ひとくく)りの会話が終わると、近辺はすっかり静寂のベールを覆った。
 今、リュカとビアンカの距離は10cm程。お互い意識してたわけじゃない。ソファに背もたれもあるし、二人掛けとて痩身(そうしん)の彼らには余りある。
「ビアンカ」
「うん?」
「僕の考え、聞いてくれる?」
「うん?どうしたの急に」
「ちょっとだけだから」
「いいわよ」
 けれどもリュカは顔を俯け口をつぐみ、なかなか話そうとしない。
 ビアンカも何のことか早く聞きたくて興味心が沸々と湧いてくる。でも何だか深刻そうで無理に言わすのはいけないと思って問うことはしなかった。
 しかしビアンカにとってはその時間は長すぎた。ビアンカが沈黙に耐えかねて水を飲む。リュカも同じタイミングに飲んだ。つい目と目が合う。リュカは恥ずかしそうに、申し訳なさそうに顔を伏せた。
「あの・・・さ」
 リュカは顔を伏せたまま開口した。
「きれいごとかもしれないけど・・・」
「いいよ、きれいごとでも」と、ビアンカはなるたけ優しい声で答えた。
 リュカはまさか返事が返ってくるなど思わなかったのか、一瞬驚きの隠せない顔でビアンカを見た。でもまたすぐに真剣な顔つきで、視線を目の前のテーブルに置いてある自分のコップに映して、
「本当にきれいごとだよ。馬鹿みたいに」
 連呼してリュカは念を押した。
 どうして貴方はここまで優しいの?いつも人の事を気にしてばっかりだ。
 じれったさばかりがビアンカの思考を巡らす。
「いいわよ。リュカのそういう馬鹿なところが好きになったんだから。ほらっ」
 語尾を少し覇気(はき)をつけてビアンカは拍車を掛ける。リュカは呆気にとられた表情をしたが刹那、失笑した。
「面白いね、ビアンカは」
「もうっ、そんなこといいから早く言ってよ。気になってしょうがないじゃない」
「・・・ん。ごめん」
 なんで貴方が謝るの?貴方を急かしてしまってる人はわたしなのに。
 ビアンカは自分の中で自分を毒づく。
「僕だけかもしれないけど」
「いいから早く」
「分かり合えない命ってないと思わない?」
 リュカが顔を伏せたまま呟くように言った。
「世の中、魔物だとか人間だとか動物だとかエルフだとか。そんなこと関係なく分かり合えないことはないと思う」
 ビアンカは黙って聞く。まだ続きがありそうだったから。話を止めてはいけないと感じた。
「変わろうと思えば変われるんだ。誰でも。だから斬るたびに躊躇うんだ。息絶える前に改心できる力があるのかもしれないのにって。・・・いや、あるんだ。必ず、ね
 そこで一旦ぷつりと話が途切れた。それからやっとリュカは顔を上げた。悲しいような、怒ってるような顔をビアンカに向けて、
「ビアンカ・・・どうすればいいかな。魔界に行って、元凶に会って、どうしたらいいのかな・・・?」
 なぜ貴方はそんなに弱いの?もっと頼ってよ。強いわたしを頼ってよ。もっとはっきり、わたしに甘えてよ。
 感情が溢れ出そうになる。求める感情がバケツから溢れ出そうになる。
「素敵な考えだと思うわ」
 ビアンカが薄く嬌笑(きょうしょう)する。
「ねえ、命(めい)って何だろう。誰が決めるものなのかな。神様かな。リュカはどう思う?」
「・・・さあ。わかんないな」
 リュカは水が入ってるコップを少しもてあそんでいる。きっとコップに対しては無意識でちゃんとビアンカには耳を傾けてるだろうが。
「わたしは自分自身だと思う。自分で道を選んで、
 もったいぶったような沈黙の後、甘いような苦いような声で、
「自分が正しいと思ったらそれでいいって思うな、わたしは」
 正直に自分の気持ちをさらけ出すって何でこんなに恥ずかしいんだろう。つい弱気になってしまって相手の反応を確かめてしまう。
 そうか。リュカもこんな気持ちだったのね。弱いんじゃなくて、自分の気持ちを言えるリュカは強いんだ。
「・・・ありがとう」
 ビアンカの心に暖かい雨を降らす。潤いをもたらす。
 “ありがとう”という言葉の力はすごい。
 照れくさくて、今顔が赤いのかも。ビアンカは顔が見えないように窓へと目を向けた。冷たいような夜空の月明かりがほんのりとビアンカの顔を照らす。
 周囲が静かで、子供たちの寝息だけが今この空間にあった。
「何か思い出しちゃうなぁ」
「何を?」
「レヌール城。こんな綺麗な月が輝いてたっけ
 ビアンカの視線を追い、リュカも窓を見た。雲ひとつない空には月と星がまるでのりでくっついてるように見える。それぐらい意図的に見えるぐらいいくつもいくつも星があった。
「思えば、わたしって子供の頃いばりんぼだったのね」
「そんなことないよ。勇気があったじゃないか」
「ううん、上辺だけよ。本当はね、あの夜なんて足ガチガチ。お姉さん意識が強かったのかな」
 ビアンカは昔の自分を思い出して思わず微苦笑した。どんな時も強気で生きていた。絶対に弱いところを見せまいと頑張って、つい言葉が強くなっちゃったりして。でもリュカはそんなわたしも受け入れて笑顔で、なんとなくのんきでマイペースだったなぁ。
 そんなビアンカの左肩に、リュカの手がかけられた。ビアンカがリュカを見るとリュカは無言でこっちを見つめていた。
「この手は、今わたしと同じ歳ね。何か同い年っていいな」
「・・・そうかな」
「うん。正直、あんだけ子供の頃に二歳上二歳上って威張ってた分、ちょっと抵抗はあったけどね」
 ビアンカもリュカも特に言うこと思いつかなくて、ただ見つめ合っていた。
 わたしはこの瞳に何度吸い込まれそうになっただろう。まるで空の果てにあるブラックホールのように、このノワールの瞳の奥底には何かしら秘めているのかもしれない。
 ビアンカが少し顔を前に出した。リュカも前に出した。
 お互い目を閉じて、
 お互いの唇が遠慮がちに触れた。
 柔らかくて甘くて依存しそう。
 それから何秒経ったろう。先に唇を離したのはビアンカだった。
「・・・やだな。心臓の音が聞こえちゃいそう。子供達起こさないようにしなきゃ」
 ぺろっと舌を出してビアンカは微笑。ジョークをおまけにつけるとリュカも微笑した。
「心臓の音で子供達が起きるなんて、よっぽどティミーのいびきのほうが大きいよ」
 二人はベッドの上の子供達に視線をやる。二人とももうすでに安眠状態でいい寝顔だった。
「そうだ」
 リュカはひょっと思いついた。寝る前の娘の姿を。言葉を。
 女の子同士、ビアンカならわかるかもしれない。
 リュカは疑問符を頭いっぱいにつけたビアンカに相談をした。
「あの子が?そんな子だったかしら」
「いや・・・真逆だと思うけど。だからわかんないんだ」
「ひょっとしてティミーだけひいきしたとか、じゃない?」
「ティミーだけを?まさか。ティミーとはちょっと前に話をしてたけど」
「それ、どんな会話?」
「ティミーがお母さん・・・マーサを助けるために頑張って魔物を倒すよって意気込んでたから、応援の言葉を投げただけだけど」
「それよそれ!」
 無意識にビアンカは声が大きくなってしまい、慌てて自分の口を両手でふさいだ。子供達を起こしちゃだめだめ。
「へ?どういうことだい?ビアンカ」
「女の子はねー、嫉妬深いのよ。ちょっと他の人を褒めただけで自分も求めちゃうっていうのかな。ポピーの場合は対等なのが双子のティミーだから、妬いちゃったのかもしれないなぁ」
「・・・そうかなぁ」
まだ確信もてない様子でリュカが首を傾げる。
 「そうよ、きっと」一度言ったことは曲げられない。「そうに違いないわ。明日、ちゃんと謝らなくちゃ。へそ曲げられたまま接するのはつらいから」
「うん。わかった」
 どうも僕はビアンカには敵わないな。本当にビアンカはいつでも自信満々ではきはきしてて。僕に持ってないものをたくさん持ってる。たくさん、たくさん。
「・・・やっぱりビアンカってすごいなぁ」
「なによ、いきなり。お世辞はよしてよね」ビアンカは急に褒められたことを隠すのについ顰めっ面になってしまう。
「お世辞じゃないよ。本当だよ」
「・・・」
「子供の頃のビアンカも今のビアンカも・・・」
「そう、かな?」
 ちょっと反抗気味にビアンカが言う。そんなに甘い声で言わないで。わたし、強く生きたいのに。つい弱く繊細になってしまいそう。
「わたし、リュカのほうがすごいと思うな。わたしにないもの、たくさん持ってて」
「え」
 突拍子にひっくり返った声をリュカは出してしまう。ついさっきまでリュカは水を飲んでいたからビアンカはその水が原因で喉につっかえたのかと思って
「やだちょっと。大丈夫?」
 そっと背中をさすって訊く。その手をリュカは制止した。
「い、いや・・・。あの、僕も丁度同じこと思ってて・・・」ぎこちなくリュカは言った。
「・・・?」
「ビアンカって・・・僕が持ってないもの、たくさん持ってるなって」
 顔を赤くしながらリュカが小声で話す。
「やだ・・・わたし達、テレパシーでも使ったのかしら?」ビアンカが苦笑交じりに冗談口を叩く。
「・・・だったら、僕達似たもの同士で通じちゃったのかも」
 リュカがちょっと本気で言うと、ビアンカがぷっと吹き出した。
「もう、リュカったらおっかしー」
「な、なんだよ。ビアンカが先に変なこと言い出したんじゃないか。テレパシーだとか」
「なにそれぇー。変じゃないわよ」
「じゃあ信じてるの?テレパシー」
「べ、別に信じてないわけじゃないけど、でも・・・」
 ビアンカがその先は喋りにくそうに口をつぐむ。しかしすぐに口を開く。小さな声ではあったけど。
「あったらいいなって、思わない?」
 貴方のわからないところがわかるから。考えが違(たが)えても、貴方の思いが読めるから。
「うーん・・・どうだろう。僕はテレパシーで仲良くは・・・あんまりって思うかな」
 冷たく反対されて、思わず知らずビアンカは固まった。
「そう、かな?」
「さっき分かり合えない命はないって話したよね?」
「うん」
「相手の気持ちを読んで分かり合うのはちょっと違うって思うんだ。なんらか通じ合って始まるような気がするんだ」
「・・・そうよね。ごめんね、リュカ」
 ついつい謝ってしまったビアンカの頭をリュカが小突く。
「何で謝るの。ビアンカの意見に善悪はないんだから。蓼(たで)食う虫も好き好きだし。それにさっき自分が正しいって思ったらそれでいいって言ったのはビアンカじゃんか」
「・・・ん。ありがとう」
 リュカの気持ちがビアンカにはとても嬉しかった。リュカがビアンカの存在を受け入れてくれてることがよくわかって。
「やっぱりビアンカだなぁ」
 微笑ましく笑うリュカがちょっと憎らしく思って、ビアンカは右頬をつねった。自分だけシリアスになって馬鹿みたいじゃない。
「いだだだ。ギブ、ギブ」「・・・ま、今日はこの辺で許してあげよう」ちょっと気取ってみたりなんかして。
「もう、ビアンカったら」
「気にしない気にしない」
 ねえ、知ってる?
 貴方がわたしの名前を呼ぶたびに心臓が痛いぐらいときめいちゃうの。
 目を瞑った。リュカも一緒に目を瞑る。
 沈黙が流れた。でもそれは気持ち悪いような沈黙でもなくて、気まずい沈黙でもなくて。
 ・・・暖かい。
 耳を傾ければどこかから静かで長閑(のどか)なメロディが流れてきそうだ。まずい、寝ちゃう・・・。
「なんか・・・良心家族よね・・・」
「・・・ぇ?」
 出し抜けに呟いたビアンカの言葉に、一睡しかけていたリュカがひっくり返った声で応答する。
 そんなリュカに気も掛けず、ビアンカはうわ言のように続けた。
「皆、優しくて。なんだかんだ言って、必要な時しか戦わないじゃない。魔物に・・・色々恨み持たなきゃいけないのに
「ははっ」
 リュカが乾いた笑い声を立てた。ビアンカがゆっくり目を開けてリュカに目をやると、リュカはまだ目を瞑っている。どっかの王子様みたい。って、一応王だけど。
「僕は好きだな。りょーしんかぞく」
 その声には疑いやからかいは微塵もない。心の底から言葉に余るぐらい、そう思ってるらしい。
 ビアンカはうっすら笑(え)んでまた目を閉じた。
「・・・ええ。温潤(おんじゅん)で本当に」
 その声の中には満足と後悔のなさが感じられる。
 リュカは薄目でビアンカを見た。彼女は目を閉じていてどこかのお姫様のようだ。・・・王妃だけど。リュカはその様子に目を細めた。
 またさっきとなんら変わりのないように目を閉じて、
「いい子達に育ったよ」
 蚊の鳴くような声でリュカがぼそりと言った。でもこの静かな空間には十分なほど聞こえる声だった。
「ティミーもポピーも、10年間手放して・・・あ、リュカは8年間手放してしまったけど・・・」
「素直で、元気で。感謝しなくちゃね。サンチョやオジロン閣下に」
「わたし達を待った魔物達にも」
 感謝すべき人達がたくさんいる。今、その人たちを置いて旅に出てる自分達が何だか卑怯者のような、別に卑怯ではないが時々そんな気がしてしまう。
 恩返し。しないと。
「・・・また、暇があったらグランバニアに帰ろう」
「うん」
 間髪いれずに満足そうな声が返ってきた。
 恩返し。グランバニアに帰ること。恩返ししなけりゃいけない皆が心の底からそう思ってるらしい。
 でも今は帰れない。“暇”になるまでだから。今は成し遂げなければいけないことがあるのだから。
わたし達、幸せ者ね。リュカは幸せっていえる?」
「うん」
 言葉を何一つ濁すことなく、リュカは頷いた。
 暗い部屋の中、遠く大きな明かり達が瞬き口々に囁く。
 その声はこの星の人間達の耳に届くものではないけれど、
 ほら、耳を澄ませば――あの人の思ってることも、聞こえてしまうかも?
 なぁんて。
 
 

シリアスが続いた後のちょっと甘いNo,9の作品。

チイかは甘い系は少し苦手なようです。ほんの少しの心情の動きも想像して掴み取らなきゃいけませんしね。

リュカとビアンカ。ティミーとポピー(違

私はリュカとフローラ派ですが、やっぱり小説でもCDシアターでもビアンカですね。

幼馴染やらレヌール城やら思い出が溢れているビアンカと結婚する意思が自然なんでしょうね。

幸せだと感じること。たとえ窮地に立っていてもこう思えるリュカやらビアンカやら。

りょーしんかぞくというか、まったりの域超えてたりして。・・・ないか。