No.3そのchikara?&僕ら
自分は何をしたいが為に動いてるのか
自分を理解して動いてるのか
それともこれから理解するために動くのか
*****
早くチビの所に戻んないと。ってあれ。いつまで走ってるんだ。気付いたらチビのちの字も見ずに頂上の隕石現場まで着きそうでネスは焦った。こんな遠くまで来てないはずなのに。ネスはさすがに違和感を感じて立ち止まった。
「お、おい。急に止まるなよ」
ポーキーは足が速いわけではなくいっそ遅いの部類に入っているので、急に足を止めたネスにポーキーが衝突することは限りなくなかった。
ネスは自分の心臓を押さえながら辺りを見渡した。自分の心臓の音がものすごく雑音の役割を果たしていて、周りの音が良く聞こえない――
「ちっ。老犬だって見くびってちゃ困るぜ。まだ数年は生きて老後を平穏に送りたいんでね」
チビだ。良かった。崖下に落ちて呻いてるわけではない。……と、一匹?
「へぇ。それはお気の毒に。この辺じゃ有名なんだけどな、俺。“藍荊棘(あいばら)レブル”。お前、この辺に住んでるなら一度は聞いたことあるだろ」
若くて低い男の人……否、犬の威嚇する声とチビの声が後ろから聞こえた。やっぱ通り過ぎてた。ていうか何喧嘩売ってるんだよっ。
軽く舌打ちしてからバットを構えて走ってきた道を引き返した。今日で何回こんなことしてるんだか。
「お、おい。待てよっ。何処に行くんだよっ」「とにかくポーキーはそこにいて!」
言ってからネスは又立ち止まって考えた。……待てよ。これ、スパイラルしてないか。ポーキーを置いてったら蛇に絡まれるし、チビを置いてったら野良犬と喧嘩しだすし、挙句の果てに今ポーキーをこの場所に置いてったら蜂の巣と遭遇しするかもしれない。……雀蜂かな。
「あー」溜め息を濁しながらネスは自分がもう一人欲しいなど物理的に無理なことを考えた。その間にもあっちでワンワンウーウー、こっちでネスを呼ぶ声。混乱して叫んで逃げ出したくなるくらいだ。っもう!牛になった気分だ。
「犬払ってくる!ポーキーは待ってて!くれぐれも絶対、何もするなよ!」強く念を押すことで、まず自分の中で和解した。今はチビが危ない。うん。
「は?犬ってなんだよ。確かにさっきからうっせえとか思ったけどさっ」「ライトあるんだから少しは耐えろっ」どうにも噛み合ってない会話をして、ネスは走り出した。チビにライト持たせりゃ良かった。そうそう、首輪辺りに括り付けてさ――そんなことを考えながら声が聞こえるほうに向かって走った。
「ばぁか。俺がお前みたいな爺さんに負けるわけねえだろ!爺さんは川原で魚でも突付いてな!こんな山にゃ合わねえんだよっ」
「はんっ。貴様こそ野犬らしく、情け掛けて飼い犬に攻撃することなんて止めろよ」「俺は“貴様”じゃねえ。レブルだ」
「どっちでもいいじゃねえか。野良だろ、細かいこと気にするタチなのかい。大したことねえな」
「言うねぇ爺さん。その生意気な減らず口、二度と開けないようにしてやるよ。老後の人生を穏やかに暮らしな。俺に歯向かった事を後悔しながらな!」
「へっ、そっくりそのまま返してやるぜ、その言葉」
ちょ、何言ってんだよチビ。ネスがチビの所についた時点で二匹の犬の取っ組み合いが始まっていた。二匹の犬は互いに自慢の足やら爪やらをぶつけ合っている。戦況はほぼ互角だと嬉しいが歳の関係でも成長環境でも勝ち目がチビにはない。チビに白旗が上がるのは目に見えてるのにこの意地っ張りの業突く張りっ。
「チビ、もうやめなよ!」「ネス」チビが振り返って「うっは、敵に背を向けんなよだ!」と藍色の柴犬?がチビに爪を振り上げた。
鈍い音が辺りに響いた。――爪とバットのぶつかり合い。爪、割れなかったよね?
「ごめんレブル。悪い気はないんだけど、このチビって奴は血の気が多いからさ。ほら、チビも謝れ」
唸り声を上げていた藍色の柴犬“藍荊棘(あいばら)レブル”は、何で自分の名前をと目を見開いてにネスを見た。
「僕、動物の言葉解かるんだ。別に聞きたくなかったらそうすることも出来るけど、意識しないとそれは無理だし疲れるから」
ネスは周章しながら補足する。
「へぇ。珍しい人間だね」ちょっと間があってから「……しょうがねえ、心優しいお前に免じて許してやるよ。そこの爺さんにはイラついてるけどな」レブルはそう言うと踵を返した。それから今更のように「あ、こいつ、チビって名前なのか。だっせえ名前」
「貴様!」
また食って掛かりそうなチビの口をネスは塞いだ。「こら、チビ」「だって」その間にもレブルは段々と遠くなる。元々藍色だから夜の暗闇にはすぐに同化してしまった。
「……俺もネスに免じて許してやる。さあ、行こうぜ」喧嘩する相手がもう既に意気消沈しているから戦えないのだが、チビはまだそんなこと言っている。
「荒れたところ見せてすまなかったな」
本当に動かないでじっとしてくれていたポーキーと合流し、途中在(あ)った山小屋的存在の家を首を傾げて見ながら、数刻前に警察官とポーキーと話して結果的に追い返されて終わった場所に来た。
通行止めの際に使われた警察の忘れ物のバリケードが二個、共に不満気に自分の存在をアピールするように、風が吹くたびに自分の看板部分の薄い鉄板と土台部分のパイプを打ち鳴らした。それが一層恐怖感を煽る。
今はそこに警察官はいない。ポーキーの騒ぎを邪魔する者はいない。ポーキーは颯爽とバリケードを蹴ってあの進めなかった先へと進んでいった。
「あ、一人で先行くなよ」別にライトがあるから何処にいるかはよっぽどのことがない限り判かるのだが、その相手がポーキーだから不安だ。
「なぁ」気付いたらポーキーが足を止めていた。「これなんだと思う?」
ポーキーが指差しでほんのりと赤く色づく……石?のような物をネスに示した。周囲の草むらが若干剥げている。
「石じゃない?」直感でとりあえず答えておいた。
「ただの石が熱を出すような色をするかよ」「まあ、そうだけど」「触ってみろよ」またポーキーの変な思い付きが。「え、なんで」「いいじゃん。蛇よかマシだぜ」
何かもう、ポーキーと話すのも面倒になって頭がじんじんしてきたのでネスは怖々としながらも、窪みの中心で仄(ほの)かに暖色に光っている物体に触れて「……っ」反射的に引っ込めた。
熱過ぎや冷た過ぎで火傷しそうで脊髄が反応した、というわけではない。
温かくて。予想以上に柔らかさを感じれる温かさだった。再度触れて、それを持ち上げてみた。複雑で歪(いびつ)な形をした石。拳くらいの大きさのそれは一部はつい最近何か大きな物から分かれてきたような、新しい断面がある。
「それ、もしかして」ポーキーが新しい発見をしたというように目を輝かせて言った。「隕石の破片かもしんねえ!すげえ、触らせて」
承諾するより前にポーキーはネスの手の平に乗っている隕石の欠片だと言い張った物を引っ手繰(たく)ろうとした。
「ってええ!」
その石はぱちりと青白い火花を放ち、意思を持って弾き飛んだように見えた。そしてまたネスの手元に戻ってた。又はポーキーの手が弾きとばれたように見えた。どっちにしろ、石が拒絶反応を起こしたようにしか見えない。
ポーキーは両手をに息を吹きかけて手を懸命に冷やしている。
「ネス、お前なにかしただろ。俺が触れないように!」
恨みがましい視線でポーキーがネスに畳み掛ける。
「はぁ?知らないよ」ネスだって良く解からない。知らん顔で手元にある隕石の欠片(仮称)を見て首を傾げた。
「だって静電気みたいに来たぜ」
「裏を返せば静電気かもしんないよ。地面触って電気逃がしてから触ってみれば」
半眼で睨み返しながら両手をポーキーに差し出して問いかけた。ポーキーは何か言いたげに唇を噛んでから「べっつに。そこまで興味ねえよ」と言ってさっさと歩き始めた。ネスとチビは顔を合わせて肩を縮めた。
上り坂というものがようやく見えなくなり、一行は感無量でその惨状を見渡した。
「うわ……」
最初に呟いたのは誰だろう。感嘆の声しか出なかった。
ネスの手に乗っていた隕石の欠片(仮称)は、多分確定だと言っていい。あの小さい石があった場所を周囲含め半径十センチを百倍くらいにするときっとこんな感じだろう。
隕石。そうとしか思えない巨大な岩が地面を抉(えぐ)っている。避けた大地の中央部にあるその巨大な岩は暖色に淡く明滅していた。
「すげぇ、……本物か?」ポーキーの顔に何故金の字が見えるのだろうか。
「ポーキー、触んないほうが」「いって!」さっきの小さな石を喩えるならピリッだとすると今のはバチチチチ!!と来たのでは。そんなことよりも忠告が一歩遅かったみたいだ。
「あー爛れちゃうって」我ながら鈍い反応と、追加の遅い注意報を出した。
ポーキーは尋常じゃない痛みをネスに訴えた。だったらその尋常じゃない自己中心的な思想をごっそりと変えてほしい。
「あーあー」お手上げというようにネスは手を振った。「ちょっとじっとしててよ」あまり使いたくなかったけど。ぼやきながらネスはポーキーの手を取った。ポーキーの手は真っ赤になっていた。しかも両手。
「そこ触るなっ、痛いってっ」「だから暴れるなって――ライフアップα」
ネスが声を引き締めて横文字を呟いた。ネスが意識しているべきのところに、ポーキーの両手に隕石とは又違った、強いて言うなら神々しいというよりは少し神聖な青白い光が灯る。ポーキーの腐乱しかけた手が元の姿へと戻っていった。
「はい。もう大丈夫。無茶しないでね。いつもこっちに火の粉が飛んでくるんだからな」
PSI。“サイ”と読み、サイコキネシスの略称。ネスには生まれながら『ココロのチカラ』と呼ばれている力がある。この力を操れる人は世界を巡ってもそんなに多くない。普通に暮らしたいならPSIを持ってないことを装って生活をする。それくらいなわけで、ネス自身もこの力は少し避けて使おうとは思わない。心と身体(からだ)の一部であり矜持(きょうじ)しながら使うシーンを見極めていけば上手く共存できるはずなのに。まあ、ネスにとって動物の言葉を聞くのは自然に身についているPSIらしく、意識しないと外せないのだが。
だから。無理に使おうと思わなかったから、隣に小さい頃から住んでいたポーキーでさえも初見だった。
ポーキーは、多分無意識にネスの手を払った。
「……ポーキー」
静かに、でも心外そうにネスが呼びかけた。
「……お前、宇宙人だな!そうか。ネスの姿を借りてお前は――」
「違うって!僕は僕。ネスだって」
「ネス。こんな低知能な単細胞に何言ったって無駄だろ」チビが体を摺り寄せながら「ほっとけよ。人間はそういう生き物さ。神から授かった力に対して敬う。何でかって、恐れてるからさ。敬うことで自分に対してその力をいい方向に使ってくださいって心底思ってるんだろうよ」
そんな風に片付けちゃっていいのだろうか。ネスはチビの頭を撫でた。やっぱり使うんじゃなかったと思った。他の人に対しても見せたら、やっぱりこうなるのだろうか。寂しい気持ちで胸がいっぱいになる。
「おいムク犬。お前は歳をとって鼻が鈍くなったのか?そいつ、ネスじゃないんだって」そう言いながらポーキーは一歩、また一歩と後退する。
「愚か!」チビが吠えた。「貴様のその弱さ、虫唾が走る!」
ポーキーはいきなり吠えられてたじろいだ。後退のスピードが少し上がった。
「ば、馬鹿!何で俺に吠えてるんだよ、隣の宇宙人に向かってなっぁ」どんっ。この頂上の一番の大木とポーキーの背中がぶつかった。
「くっくそっ」ポーキーは足元に都合よく転がってる小石を一つ、ネスに投げた。ただ、方向が定まっておらずネスの頬を掠めていった。
「く、来るな。バットも捨てろっ」
完全に怯えきってるポーキー。ネスはただじっとポーキーの瞳を見ていた。もちろんバットは捨てなかった。
遣る瀬無かった。ネスの心の何処かで悲鳴を上げていた。僕だって、好きでこのPSIを持ってるわけじゃないのにっ――
「あれ、ポーキーじゃん」
気丈とした態度でピッキーの声でネスとポーキーの間にあった緊張感が薄れた。
ポーキーは振り向くと、ネスは視線を少しずらすと声の主がいたではないか。
「ポーキーが怖がっていなくなっちゃったからずいぶん探したんだぜ。とりあえず無事で良かったよって何やってんの?」
「お、おい。ピッキー。こいつ、宇宙人だぜ。魔法使って地球を支配しようとしてる奴だぜ!」
「は?」案の定ピッキーは目を丸くした。「ネスでしょ?」
「違うって、ネスの姿をした宇宙人!こいつ、魔法使えるんだぜ!」
「え?ん?……ああ」何か思い当たったのか妙に冷静になって「ネスでしょ?」ともう一度言った。
「ネスはちょっと複雑なこと持ってるの。それをポーキーが変な方向に持ってったら駄目だって」
……思い出した。もう半年か一年かもっと前か。ピッキーが裏山から落ちて怪我したことがあった。体中に擦り傷を携えていた、その体をネスは癒したのだ。ライフアップαで。その時にピッキーは驚いたが今までどおりネスと接してくれているのだ。
「複雑ってなんだよ」「別にいいだろ。んなこと忘れろよ。そうそう努々(ゆめゆめ)疑うことないって。とにかく早く帰ろうぜ。父さんが早く帰ってたら困るのはポーキーでしょ。僕も困るけど」
「あ、ああ……確かに」
ポーキーにとっては宇宙人や魔法より父親が怖いのだろうか。ポーキーが口を黙(もだ)し、その話は呆気なく終わった。
「全く、どっちが兄貴だか解かりゃしないよ。行こ、ネス」
「……あ、うん」ちょっとぼっとしてて若干返答が遅れながらネスは頷いた。「僕も隕石見れたから満足したし」ポケットに手を突っ込みながら言った。この中には手の平サイズの隕石がある。ポケットに入れて置いたら心持ちさっきより温かくなってる。ただ、それは隕石の元々の温かさとは違うような気がする。
ピッキーとネスとチビが並んで、次いでポーキーが遅れ気味にぶつぶつ呟きながら三人と一匹は隕石の横を通り下り坂ばかりの帰り道へ――
「ネス!」
何の戸惑いもなくポーキーがネスを呼んだ。ネスはちょっぴり嬉しくなって振り返った。さっきまでPSIに恐れていたけど今は普通にしてくれてるから、ちょっとした安堵があった。振り返ってから一瞬だけポーキーなんかに振り返るんじゃなんて思ったけれども。
「なんか、音がしねえか?ブーンブーンっていう甲虫が飛んでるみたいな」
「甲虫が?」耳に神経を集中させてみると、「あ、確かにしてる」
刹那。
今まで淡く止まりだった隕石から火柱のようなものが立った。正規の方式として言うと、火柱があるなら光柱と言いたげなものだった。
最初は細く、段々と太く。やがて隕石全体を包み込むほど。ネスがいくら手を広げても所詮半径程度しかいかないそれ程大きな隕石と、星月夜の空にある月が一つの柱で結ばれた。どっちが光源かは良く判からない。やっぱり月から隕石に突き刺さったのかもしれない。
ポーキーが一番最初に悲鳴を上げてピッキーに縋(すが)り付いた。毅然としていたように見えたピッキーは、けれど拳は畏怖で小刻みに揺れ動いていた。
ネスの黒い瞳にはその柱が映った。一度もその柱がその瞳から消えることはない。
やがて現れた時と同じように徐々に円柱が細くなっていく。ネスの視覚の映像も暖色の柱が細くなっていく。甲虫が唸るような音がそれにつれ次第に増大しているような。
それもそのはずだった。
「うわっ」
ネスの目の前にいきなり甲虫、ではなく蝿が現れた。反射的に懐中電灯で振り落とそうとした、
「こ、こらっ。儂は甲虫じゃないっ。落とすなっ」
ネスは虫が声を発したことに対して驚かなかった。とうとう僕にも虫の声が聞こえるようになったのだろうか。あーもっと面倒になったなぁ。というか甲虫だから落とすんじゃなくて蝿だから落とすんだけど。
「ちょっとは儂の話を聞いてくれ!」虫にいきなり懇願された。
「……はぁ?」眉を曇らせながら「あの、僕ら早く帰んなきゃいけないんだけど」
「ね、ネス」ピッキーが言った。「そ、そいつが喋ってるように聞こえるんだ。な、なんでかな」
「え?」ネスは蝿のほうを見ながら「喋れるの?」
率直なネスの質問に蝿はうむと相槌を打ちながら、勝手に話に入っていった。まあポーキーとかで慣れてるけどね、こういうの。
「わしは十年後の未来からやって来た者じゃ」
……突拍子すぎて飛びすぎて何の話かさっぱり。
「あの、別に夢物語に僕達付き合ってるわけじゃ」「未来はもう惨憺(さんたん)たる有様じゃ。ギーグという銀河宇宙最大の破壊主が地球の何もかもを地獄の暗闇に叩き込んでしまったのじゃ!」
熱弁を振るってるのはいいんだけど、さっぱり解からない。つまり十年後がもの凄いことになってるっていう、そこら辺どころかどこら辺にでも転がってそうなお話だ。
「しかし、しかしじゃ」起承転結の、すでに“転”まで来たか。早いね。「儂のいる未来に不思議な言い伝えが残っているのじゃ」
「言い伝え?」
ネスが復唱した。またころころ転がっていそうな話に……。
「『少年がそこにたどり着くならば、正しき者は光を見つける。時の流れは悪夢の大岩を砕き、光の道が出来る』とな」
うんうん。よくある話だ。ところで帰らせてくれないだろうか。
「あの、えっと、僕ら忙しいので」「その少年がネス、君じゃ!」「は?」
「儂の鋭い直感で判かったのじゃ。儂って凄いのう。ふぉふぉふぉ」
何か頭痛がしてきた。今なら盛大な溜め息付きという嫌なオプション付き。
「ギーグの悪の計画は十年前のこの時代でももう既に地球の一部に及んでいるはずじゃ!」人間だったら唾が有り得ない勢いで飛ぶくらいに大声で言った。「今すぐに戦いを始めれば間に合うはずじゃ!だから、ネス君」
「あ、あの、ちょっといいですか」「ん?なんじゃ」やっと聞く耳持ってくれた。「あの、話がものすごく解からないんですけど」
「うむ。よいよい」蝿が落ち着いた声で返す。「とにかくここで話すのはなんじゃ、おぬしの家へ連れて行け」
完全に蝿の波にネスは掻っ攫われてる。本当に頭がくらくらしてきた。
とりあえずもうどうでもいいから寝たいので、ネスはピッキーとポーキーを呼んでさっさと坂を下った。
もちろん蝿はついてきた。
途中在(あ)った山小屋的存在の家の前でのことだった。
「あら、ネスちゃんじゃん」
聞き覚えのないの男性の声が聞こえて、もちろんネスは名前を呼ばれて振り返ったが懐中電灯を警戒心剥き出しで相手の顔に思いっきり向けてしまった。
「眩しいっ」「あ、す、すいません」人間だったのでネスは素直に謝った。
「ネスちゃん、あんたにちょいと話があるんだけど」そう言ってからその人はようやくネス以外の人物に気がついた。ポーキーとピッキー。多分犬と蝿は対象から除外。「後で……朝でもいい。一人で俺んとこ来てくれ。あんたに見せたい物がある」
「あの、僕、あなたと会ったことありました?」
睨(ね)め付けながらネスは訊いた。さらりと予想外なことを相手は言った。「ないよ」
ネスはどう反応したらいいか判からず「はあ」自分自身でも良く解からないことを呟いた。
そんなネスに一瞥しながら彼は何故ここに建てる必要があるのかと訊きたくなるような小さな小屋に入りながら「ただ、あんたは何処にも誰にも口外しなさそうだからね。俺の自尊心が疼いたのさ」とだけ残した。
呆けているネスに対して一番に声を掛けてきたのはポーキーだった。興奮を抑えた声で、
「お、おい。今のスカウトなんじゃねえの?!」
「ねえだろ」ピッキーがすぐに突っ込みを入れる。「ま、僕達には関係ないんじゃないの」
と冷めた口調で言ったのでポーキーは何も言い返せなかった。
「大切なのは知恵と勇気、そして仲間達。……言い伝えでは、三人の少年と一人の少女がギーグを倒すという。そのうちの一人の少年がネスというわけじゃ。うんうん。きっとそうじゃ。儂の考えにはきっと狂いはないはずじゃ」
「チビ、何か老人同士言ってやってよ」声を潜(ひそ)めてネスがチビに話しかけるとチビは機嫌を損ねたような声で「老人とは失敬な」
帰る道中、ずっとこの蝿は喋り続けている。それは十年後の話だったりギーグの話だったり重要そうな話も結構あるが大半は蝿自身の自慢話だった。
「別にネスがしたいようにすればいいじゃないか。いつまでこの茶番に付き合わせるんだとかさ。ま、本当だと思うなら言わないほうがいいかもしれない。ただ、喋れる蝿なんて珍しいからメディアに売り飛ばすのもいいな」
「そこまでさすがに」苦笑しながら言った。「まあ、信じてもいいしね。さっきから聞いてるとPSIの話が出てるから、ひょっとしたら教えてもらえることがあるかもしれないし」
そういってる最中から「――そこを儂がサイコシールドΣをばっとかっこよく使ってじゃな」とPSIらしき単語が出てきた。
後ろではポーキーが良く解からない思い付きをピッキーに向かって喋っているがピッキーが抑えてる感じがした。時々“ネス”とか“蝿”とか“隕石”とか聞こえる。
ぶらぶらとそうやって帰っていてようやく家が見えてきた頃だった。
「わっ!」
冷たい光線がネスの歩き差し出していた足へと降り注ぐ。ネスは弾き飛ばされて尻餅をついた。
白い光だった。ブンブーンが現れた時とは対照的な、冷たい。
そこからドット単位でそいつの姿が徐々に光の中から現れた。正に宇宙人です。そんな容姿で地球上にはないような銀の金属質の全身スーツを着込み、人間としては少々難しい手足の長さと捻り具合だった。人間だったらあんなところであんなふうに曲がることは骨や関節の関係で現実的に無理だ。身長に関してはネスより少し背が高い程度でその部分は人間っぽいなと思うが。
左胸には逆三角形、その下に正方形を四つに割って各一センチずつ離してその右下だけ剥がされた様なマークがあった。なにかの証かもしれない。例えば、そう、宇宙人。ギーグの手下……とか。
「久しぶりだな、ブンブーン」
くぐもった機械的な平板な声が聞こえた。聞こえたと言っても耳を通して聞こえたような気がしない。左右のスピーカーの間に頭を突っ込んだような、頭に響く声だった。聴覚が麻痺してるように感じてネスは眉を顰めながら念のためバットを構えた。
「なんじゃ」蝿はブーンブーンと羽を鳴らしながら落胆した声で「スターマンの子供か。所詮子供か」
「ギーグ様の計画を邪魔することにお前は昔から熱心だった。しかしブンブーン、もう諦めろ。お前は英雄ではなくただの虫螻(むしけら)なのだ」
淡々とスターマンと呼ばれたそいつが言った。何処が発声器官か判からない、そもそも声を発してるか判からない。そこで初めてネスは蝿がブンブーンという名前なのだと知った。ぴったりすぎて異議はない。
「は。スターマンの小さい子じゃ。こんな奴、すぐ終わるじゃろうて」ふぉふぉと最後に失笑らしきものを付け加えて嘲るようにそいつの周りを弾丸のように素早く、ピッチングやローリングで相手を翻弄して見せた。
「こいつっ!」
体格に比べ長すぎる手をスターマンが振り回したが、しかし残像を残して木を薙ぎ倒しただけで、小さく動くブンブーンに当たることはない。
「叩き潰してやる!」
何処かの神経が切れたような声でスターマンは手を、腕を振り回す。ブンブーンは華麗にそれを避けて見せた。ブンブーンを老人(老虫?)と甘く見てちゃいけない。……チビでもう既に学んだ気がするが。
ネスはその間にポーキーとピッキーを木の裏に隠した。「ね、ねえ!ネスはっ?」「すぐ戻るよ」ネスはピッキーの疑問に軽く応じてバットを構えて二人から離れた。
「ブンブーン!」ネスは呼びかけた。「協力するよ!」
「おう。俺もな」チビは潔い声で「お互い老いた同士やろうぜ」
「おぬし達……」飛び回っていたブンブーンがネスの前で止まってから値踏みするようにチビの周囲を一回だけ飛んだ。「怪我しても儂は何も言わんからな――サイコシールドΣ!」
ブンブーンが掛け声を上げると、ネスの視界が若干青みが掛かる。本当に若干でこのまま生活しても支障をきたさないと思うくらいだ。
「ブンブーン、これって」「相手はPSIを使う。その攻撃から身を守るためじゃ」
訊く前に説明されてしまったが訊きたいことは合っているのでネスは特に気負いせずに、スターマンへと目線を泳がせた。
あの手足にやられたらバットが折れそうだとまず第一に思った。小さい頃に買った大切なバットだ。大切に使わないと。
「ブンブーンっ。最後に一つだけ質問があるっ。スターマンは・・・ギーグは改心させることは不可能なの?」
しかしすぐには答えは返ってこなかった。不自然に数秒してからブンブーンは「優しい子じゃ・・・」と呟いて「無理じゃ。奴は負の塊。正しき者になろうとすると己の存在が消えると言われておる」
「……」ネスは何も言わなかった。言えなかった。
出来れば戦いたくない。それがネスにとっての第一なのだ。人も動物も、もしよければギーグも一緒に仲良くと思ったのに。
「PKファイアーβ!」
そうスターマンが叫ぶと炎の帯が現れた。
炎がうねって尾を引きながら命中するっ……!そう思ってネスは思わず顔を背けて立ち竦(すく)んだ。
一秒、二秒、三秒……。異常、ない……?
炎は発せられたはずなのになかった。炎の代わりに微風が服を嬲(なぶ)った。 「……?」しばらく理解できず頭に疑問符を浮かべたが、あ、サイコシールドΣってこれ?サイコの盾……PSIから身を守るためのPSIなのだ。こんな使い方があるんだ、力にも。
「ふぉっふぉっ。甘いのう甘いのう!」
「ぐっ……」
相手は悔しそうな声を上げた。腕を使おうと振り上げた、標的はネス。
「っ!」さっき協力すると言っておきながら、ネスはバットをしっかり握って目を瞑って喉から空気が漏れるような声を出して、その瞬間に動くことが出来なかった。
「ネス!避けろ!」とチビが吠えた気がするが、気付いたらそのチビに体当たりをされていた。目を開くとズサッと音を立ててチビが地面と身体を擦らせて滑ってきた。
「チ……!」心臓が早鐘のようで声を出すタイミングが判からず、変なところで息継ぎして全部言えなかった。
「だいじょう……ぶだ……ちょ……後ろ……足を……」「喋んないでっ……ライフアップαっ」
咄嗟にネスはPSIを使ってチビの後ろ右足、血が白い毛に滲んで垂れ掛けている部分に意識を集中した。しかし動揺してしまって命中しない。気が動転してしまい、的外れなところを治癒してしまった。
「ご、ごめっ……」「落ち着いて、やって……いいから……」チビが苦しそうな声でそう言った。「う、うん」ネスが泣きそうな声で応じると、チビは小さく頷いた(気がした)。
大きく二回深呼吸して、「ライフアップα」青白い光がチビが怪我を負った部分に今度こそ当たった。――ほっとしたその瞬間を、敵が狙わないはずがない。
スターマンは自慢の腕を横薙ぎでネスとチビをまとめて吹っ飛ばそうとした、しかしその刹那ブンブーンの体当たりがスターマンを文字通り数回貫いた。
「こ、この蝿がっ……!」
妙にどす黒い、人間で言うと血のような物がスターマンの体に空虚に開いた穴から垂れ出した。そしてどさっと音を立てて倒れることもなく、相手は現れた時と同じようにドット単位で掻き消えた。白い、乳白色の柱と一緒に。
そこで沈黙が降りた。ひゅーと暮夜らしい静かな風が流れて、ブンブーンが喋りだしたのでネスは我に返った。
「ふぅ、危ないところじゃった」
開口一番、ブンブーンは何事もなかったように呟いた。
「奴は儂を消すために十年後の未来からやってきた殺し屋じゃ」
「殺し屋……?」
なんということだ。そんなの、存在するはずが……。ネスは瞬きすることも忘れて、口を閉じることも忘れてしばらく呆然とした。
「一先(ひとま)ず送られてきたのは今の奴だけじゃろう。だが、安心は出来んな」半ば独り言でブンブーンが呟いてから「ネス」と呼びかけた。
「あんたが戦うのは、ギーグが送り込んできた敵ばかりではない。同じ地球の中の悪しき心の人間達も、あんたの冒険の旅を妨害するじゃろう」
「え……?」
ネスにはとてもじゃない話だ。同じ人間と火花を散らさなきゃいけないだって?とてもじゃない。背筋が凍った。
「動物はもっとそういうのに敏感じゃ。ギーグの発してるもの、つまり悪の心を刺激するものに良く反応して……ネス?」
ネスは唇を噛み締めて俯いて考え込んでいた。両手の拳は胸の前に逆手でバットを握っている。それは別にこれから誰かに突きをかまそうとかちっともそんなのじゃない。ネスの腕は震えていた。武者震いなどそんな勇ましいものではない。想像してみて、恐ろしげだったから、震えている。
「……本当に良い子じゃ……」
ブンブーンはそっと呟いた。「誰だって向き不向きはあるもんじゃが……今考えなきゃいけないことはやるかやらないか……」
「ネスなら良い決断を下すさ。俺はネスを信じるぜ」
チビがそっとブンブーンに話しかけた。「あんたのことも信じるさ」
そう言うチビの顔は凛としていた。ネスは横目でそれを見て再度俯いた。
そんなこと、とてもじゃないよ――
二つ並んでいる家。青い屋根を被った、向かって左の家の窓からは白色(はくしょく)の光が漏れ出ていた。
「うっそ。マジかよ」
ポーキーが嘆いた。どうやらタイムリミットらしい。
「あーあ」ピッキーは大袈裟に溜め息をついた。「またけつ叩きかよ。全部ポーキーのせいだかんな」
「何言ってんだよ。元はといえばピッキーが迷子になったせいだろ」
「ポーキーがただの蜥蜴に驚いて逃げ出したんじゃないか。僕は無罪」
二人が悪態をつき始めたのでネスはしょうがなく制した。
「ここで言い争ってもどうにもならないでしょ。今は帰って素直に謝ることを考えればいいじゃんか」
「ネス、親父の怖さが解かんねえからそんなこと言えるんだぜ」とポーキーがすぐさま言葉を切り返す。
「そうそう。あの大きな手から繰り出されるびんたは味わんないと解かんないよ」ピッキーまでポッキーと意気投合してしまった。なんだって知ったこっちゃない。他人のっ父親のびんたなんて。
「とにかくっ、ぐずぐずしてる暇あるならさっさと行ったほうが楽だって。僕も行ったげるから」
ネスはうんざりとした口調で言い捨てて先頭をさっさと歩き出した。
白い戸を目の前に、ネスはしがみつく二人を引き離してチャイムを鳴らした。すると、家の中で象が行進しているような地響きが聞こえた。扉が物凄い勢いで開くと分厚い化粧をした、お世辞にも綺麗なラインですねとは言い難い体格の女性が出てきた。というか言ったら多分、あらあらそれ嫌味ですかとすさまじい相貌と体格で相手を押しつぶすに違いない。きっと彼女はそのことを心に掛けてにいるだろうから。
「一体何処をほっつき歩いてるんだいあんた達は!」
素気無くして甲高い耳障りなハスキー声で彼女は怒鳴りつけてきた。
「お仕置きだよ!ちょっとお父さん所に言ってきな!」と何故かネスもどたばたに巻き込まれ無理矢理家に押し込まれた。チビは外で待機出来たみたいだけど。
「あ、あの僕は」「ったく。ちょっと目を放した隙にこんな夜遊びなんて。誰が教えたんでしょう。……ん?」ミンチ家の母の目にやっと我が子ではない、赤のキャップを被った黒髪の少年が映った。
しばらくネスを見つめて「……ふぅん。なるほどねぇ」相手は悟ったように頷いて「ま、いいけど」と自己完結で別の部屋へと欠伸をしながら消えた。なんだあれ。
さて帰ろうお邪魔しましたと思って玄関へ戻ろうとすると、目下に巨躯の影が落ちた。後ろを振り向くと、四角い銀のフレームの眼鏡を掛けさっきの母と同じような体格を持った男性がいた。
「うちの餓鬼共がどえらい迷惑を掛けたようで、すまなかったね」
何処か偽善をはっつけたような微笑と面倒くさそうな謝罪の言葉を述べると次の刻にはもうそのことは綺麗さっぱり忘れたように、じゃあまたお父さんとお母さんにお隣同士宜しく言っといてくれ等さえ言わずに去っていった。
こんな人達なのだ。ネスの家の隣に住んでいる人達は――。所で吠えぬ犬はいない。ポーキーがいい例だ。
なんとなく悲しくなりながらもう帰ろうと本当に思ったら、また目下に巨躯の影が落ちた。
「ところでお宅の家、いい加減立ち退いちゃくれないもんだかねぇ・・・。あんたの親父さんに貸してるどえらい金のせいで家(うち)は貧乏暮らしをしているのさ」
ネスが少し睨みを効かせて相手を仰いだ。だったらなんで外食なんて出来る?なんであの人はあんな無駄な化粧をしてるの?それを買うお金があるからでしょう?
もちろんそんなことはネスは言える立場じゃない。気付いたら金利が上がってて不当なくらいのお金を請求されるかもしれない。だったら困るのはネスの家族。
ミンチ家父は自分の主張だけするとまたさっさと奥へと戻っていった。
一瞥を少しくれるとネスはスニーカーを履いて靴紐を縛る……「ほんとに家の人の天真な性格にゃ呆れるよ。正直もんは損してばっかり……あたしらみたいにね」
廊下を象のステップよろしく歩いていたミンチ家母が愚痴をついた。ネスは後頭部から鋭い視線を感じた気がしたが、あえて振り向かなかった。振り向こうとはあまり思わなかった。振り向く義務も義理もないし。
「酷い面じゃのう」今まで何処にいたのか耳元で存在を忘れかけていた人(?)が静かに言って、羽を鳴らしてミンチ家母の方へと飛んでいった、多分。確証はなかったけれど、羽の音が遠ざかったし、何しろ相手が……キレた。
「キイイー!小煩(うるさ)い蝿だよ!死んで地獄へ行け!」
さすがにこの一言でネスは恐慌した。ブンブーンが潰されるのはちょっと困るどころか生命が目の前で消えるなんてことは後味悪いことこの上ないという問題でもなく、ネスはただ単に一つの生き物として生き物を殺させないと思ったのだ。
しかし遅かった。振り向く前に背後で「ぐえっ」と絞り出すような声が聞こえたと同時に、些細だけれど床に何か落ちた音が聞こえた。
踏み潰しこれで終わりだといわんばかりに構えている彼女から滑るようにしてブンブーンを掻っ攫い、「じゃあ、また。今日はどうもっ」手短に挨拶とも言えない言葉を残してネスは飛び出した。
「お、ネス。帰ろうぜ」
チビが家から出てきたネスに声を掛けた。待ってるのがかなり暇だったようで声はほくほくと心なしか上機嫌だ。
「……ネス?」
ネスの手の中には蝿がぐったりと横になっていた。ネスは歯を噛み締めて「だ、大丈夫っ?」と呼びかけた。
「う、う……」ブンブーンが呻き声を上げた。「お、思ったよりもずっとずっと……かなり儂は弱い存在、だったのじゃな……」
「そ、そんなことっ……」上手く、言えなかった。
「ネス、どうしたんだ。これは?」
チビが状況が解からないようでネスに訊いた。ネスはチビに経緯(いきさつ)を手短に説明した。ブンブーンが、叩かれて潰されそうになった、と。
チビは驚いたように尻尾を痙攣させた。「なんてこった」
「ネス……最後に、長い遺言を聞いてゆけ……?」
ネスは二つ返事した。何も迷うことはなかった。
「ギーグを倒すには……地球とお前の力を一つにする必要がある……。パワースポット……と呼ばれる、“ネスだけの場所”が八箇所ある。“ネスだけの場所”じゃ。お主の仲間の場所ではない。お主だけの場所。一つはこのオネットの『ジャイアントステップ』という所にあるらしいのじゃ……。後は、渡さなければならぬ物があるんじゃ……ネス、隕石の欠片を持っているようじゃな……?」
はっとしてネスは右ポケットの中を漁った。ごつごつとして少し熱を持った感覚が触れ、それを鷲掴むと左手に乗っているブンブーンに見せた。何処が目か小さ過ぎて判からないけど。
「あの隕石には少しPSIが混じってるんじゃ……。PSIは人の心を感じる……。ネスはその隕石を持ってどう思ったんじゃ……?」
「どうって……?」良く解からないけど、素直に答えた。「温かい……とは思う」
「そうか……」ブンブーンは少し沈黙してから「少しだけこっちに欠片を見せてくれないか……?」
「う、うん」
ネスは欠片でブンブーンを潰さないようにそっと近づけた。そういえば蝿より足が少し太くて長いかもしれない。良くブンブーンの姿を見なかったから、本当に今更知った。
ブンブーンが足をじたばたさせた。そのうちの一本触れると、欠片だった歪(いびつ)な形が、乳白色の饅頭を連想させるような楕円の形をした石になった。
「それは“音の石”じゃ……。パワースポットではそれぞれ、音楽が奏でられる。その音を、染み込ませることの出来るグレートなアイテムじゃよ……」
ブンブーンは小さく笑んだような声を出した。そこで咳き込んだ。
「もう外は夜明けになったかのう……?」
「な、何言ってるの。今は外だよ……?」「はて、そうなのか……?真っ暗で何も見えん……」
ネスは堪えていたのに泣いてしまった。チビはネスの頬に伝った涙をそっと舐めてあげた。
自分の手の中で永眠していく一つの命のために、ネスは涙をこぼした。脆いブンブーンの体は小さすぎて重さが判からない。それでもネスは命の重さがふっと軽くなるような、同時にブンブーンの身体が重く感じたように思った。
もっとPSIのことを訊きたかった。もっと知りたいこと、たくさんあったのに。もっと、もっと……。
ふとチビを見た。チビはネスが生まれる前から家にいた。犬は人よりもずっと寿命が短い。そして、もうチビはいつ死んでも良いような老犬にまでなってしまった。
そう考えるともっと涙が出た。
+おまけなあとがき+
ここで一つ。重大なミスを犯しました。ブンブーンは蝿ではありません。甲虫だそうです。
てっきりぶんぶんという羽音から蝿だと思ってました。ポーキーが「甲虫みたいなry」という台詞もてっきりポーキーの先入観だと思ってて、結局は私自信が蝿だと先入観を持っていました。な、なんてオチだ。
さて、私が書くとなんでこんなにシリアスになるんでしょうか。終盤の方が暗いぞネス。
それにネスのPSIって隕石落ちてから開花したらしい。そんなこと知りませんでした。っていうか元々動物と話せたみたいだからPSI使えてるじゃんとか思う自分。
後、PSIの解釈は作者が脳内妄想しているだけであり、実際MOTHER2がそういう風で糸井さんがそういう風に考えてるのかは定かではありません。あしからず。
あ、レブルは完全にオリキャラです。敵キャラに『おんしらずなイヌ』というのがいるのでその代わりに添えてみました。きっとこれからも登場してくれちゃうと思います。多分。