No.2 しよとひお

自らの痛手を自ら受けるべし
そいつを助ける奴は
勇気?剛勇?大胆?
それともただの愚なのだろうか

*****

 今度は過度な迷惑行為でネスは夢から引き戻された。
 突飛なことでもない限りこの家はいつだって平穏なのに、なんでこいつ絡まりでトラブルが起こるんだろう。
 と思ったのはもちろん後のことで、今は迷惑極まりない玄関扉のノックしている謎の人物と、扉一枚越しに対峙していた。
 誰か判からない、というわけではない。むしろさっきから扉一枚越しに聞こえる声はネスにとっては呪いたいぐらいの声の持ち主である。
「ったく、誰だろ。下品な叩き方ね」
 隣でトレーシーが呟いた。確かに扉をまるで太鼓かと思っているような戸の叩き方である。何?トイレ?今混んでるよ。後にしな。という声が場外から飛び込んできそうだ。
「ネスちゃん……こんな時間に誰かしら……。出てくれない?」「え、なんで僕が」
 ママが口元に手を当てて、さも不安そうにネスに救いを求めたのをネスはすぐに却下した。
 しかしママには必殺“潤目”という武器がある。やる気のない声で返すと、すぐに目を潤まされた。恐るべしママン。
「あーもう」ママに二の句を告げだせず、さっさと玄関へ向かった。
「助かるわぁ」ころっと態度を変えたママにネスは見向きもせず、ネスはノブを回した。「わっ」開けた途端流れ込んできたのはやっぱりそいつだった。願わくば、どんなシーンにネスが立っていようともあまり会いたくはないランキングの上位にいる奴。
「た、た、たたた」
 いきなり口から出てきた言葉は単語の域でさえ行ってない。そいつが一度大きく息を吸うと、今度こそ誰にでもわかる言葉だった。「大変なんだよ!」
 ……はい?大変って君の形相のほうがよっぽど大変ですよ。ネスは悪口(あっこう)を心内で叩いておきながら眉を寄せて、一先(ひとま)ずその親切心の欠片もない調子外れな言葉に突っ込んだ。「何が?」
「何がって何がじゃないっ!あの隕石が落ちたところにピッキーを連れてったらさ、」弾丸のようにつばを飛ばしているポーキーは今始めてネスの母親に気付き社交辞令を説明中に挟んだ。「あ、小母さん、こんばんは。い、いつもキレイですね。へへへ」ネスのママも軽く会釈した。
「で?連れてったら何?」
「えーと、つまり、ピッキーを連れてったらさ。警察はシャーク団が暴れてるからってそっち行っててさ」
 話の方向性が全く見えない。何を遠まわしに言ってるんだこいつ。
「だから、ほら。解かれよ」「解かんないってば」理解できた人がいなかったにネスは壱万$賭けたっていいくらいのポーキーの説明の仕方に呆れてしまった。そんな顔をしているとポーキーがネスの耳元で「だぁかぁらぁ!」といきなり叫びだした。
「ピッキーがいなくなっちまたんだよ。警察が悪いんだぜ!警察が!」「はぁ?」
 ピッキーといえば隣のミンチ家の次男だ。長男と同じような髪色なのが残念だが(長さはピッキーはぴっちりと揃えてるが)、ピッキーとポーキーは大きく違う。ピッキーの性格は兄を引っ繰り返したような善良な子である。ただ時々ポーキーに似てしまうところがあるので、ポーキーを百六十度引っ繰り返したくらいの善良なポーキーの弟であると言っておく。
 それになんでポーキーの不始末が警察のせいなんだ。思いっきり現実逃避の台詞だ。
「俺は悪くないんだぜ?」念を押して二度も嘘を言うなっ。
 しかし二度目の夜中起床、なんたってまだ夜中でネスはいちいち口を挟まなかった。意気阻喪(いきそそう)の端的な言葉はせめてもの反抗心か、返したけど。
「でもさ、父ちゃんが帰ってきたら俺が怒られんだぜ。警察が悪いのに、けつ叩き百回だぜ。理不尽だろ」それは夜中に人の家の玄関を叩くポーキーだ。「一緒にピッキーを捜しに行ってくれるだろ?」
 ・・・は?すぐに理解が呑み込めなかった。今なんて?ポーキーと一緒に?
「ポーキー、あのさ、僕はそんな暇ないんだけ」「親友だろ!なぁ!?」人にものを頼んでるのに、どうしてこいつは人の言い分を強引に捻じ曲げようとするのだ。
「あの、悪いけど」再度断ろうとすると縷々(るる)とまた捻じ曲げられた。「ネスゥ。父ちゃんに言ってこの家のシャッキン減らしてもらうから」「……」
 ここで首を縦に振ったことは大きな間違いだった。
 ポーキーは父親にこのことを隠すためにネスに協力を求めて“ピッキー救済”に乗り込んでいるのだ。そのことをまざまざとポーキーが父親にでっち上げて喋るとは思わない。つまりシャッキンは減るわけがない。そのことに気付いたのは普段着に着替えている最中だった。ネスは地団駄を踏んだということは言うに及ばない話だ。
「チビを一応連れて行きなさい。老犬でもいざという時には役立つわよ」
 お人好しだなぁと思いながら、さっき隕石を見に行った時と全く同じ格好に着替えて、ポーキーがいるのでトレーシーの部屋からひょろ長い懐中電灯を一個拝借して、そうだ万が一のためにバット持っていくかと肩から引っさげながら階段を下りて、ママの第一声。
「えっ。なんで俺が」
 チビが非難の声を上げたが、虚しくもその声はママに通じない。唯一通じたネスは苦笑した。
「そうだね。連れて行く。久しぶりにチビと一緒に散歩したいから」
「待て待てネス」チビが声を上げた。「年寄りに無茶させるな」
 ネスは知らん顔で通して、玄関まで行って靴を履いた。玄関の扉に寄りかかってるポーキーがちょっと邪魔だったけどいちいち退いてとか言うのも面倒だ。
「ったく。感謝しな」後ろからよっこらしょと言う声が聞こえた。
「ありがと、助かる」
 ネスが笑って返すと、そんなネスにポーキーが顔を顰めて声を掛けた。「お前、誰と喋ってんの?そのムク犬?」「まあ、そんなところ」ネスは空返事をして、銀色の懐中電灯を渡して「これ、夜だから」思いやりがちっともない説明を手短にしてから、ポーキーを払うような仕草をした。扉の前に立たれると開けれないしポーキーが扉に寄りかかってしまっているので、開けるとポーキーがあわや後頭部を打ってしまう。別に今までされたことを考えたらそれぐらいの罪は償ってもらいたいが、ネスが加害者になるので止めておく。
「ちっ。面倒だな」ぶつぶつ呟きながらポーキー自らが玄関扉を開けた。おっめずらしなんて咄嗟に思ったが、思えばこれが当たり前である。
 出ようとした――その時。
 ぷるるるる、ぷるるるる。
「あ、電話鳴ってるぜ」そりゃよっぽどの馬鹿でない限り解かるよ。「早く出ろよ」「どうせママが出るよ」「小母さんならさっき風呂に行ったぞ」「……トレーシーが出るよ」「ネスの妹は自分の部屋に戻ってったぞ。一番近くにいるネスが出ろよ。俺のところなんか三回コールまでに出なかったら親父にぶっ飛ばされるぜ」
 あーもう。こんな夜中に……。「もしもし?」さぞこのネスのむかむかした気持ちが声に出て相手に伝わっただろう。「もしもし、パパだ。どうしたネス。不機嫌そうだな」
「パパ?」
 出張ばっかりしてて家になかなか帰宅してこないが、パパは時々こうやって電話をしてくる。時間帯や周期はばらばらで、向こうが家か会社かどっかの電話を使ってるか判からないけど、パパの声は変わらない。最近パパに会ったのは何ヶ月前だったっけ。
「もしかして、こんな時間に掛けたのが悪かったかな?寝てたか?」
 右耳にすまなそうな声が聞こえた。
「そうでもない。今からちょっとすることがね」
 本当に今日はそうでもない。隕石騒ぎとポーキーのせいで目が冴えてしまった。明日は昼頃まで就寝してそう。
「パパこそどうしたの?また口座の話?」
 パパはシャッキンを返すために頑張って働いてるらしい。ママにそうやって聞かされた。でもママはいつも家にいるけどママは頑張らないの?と数年前に幼いトレーシーが訊いていて、ママはいつもトレーシーとネスのために頑張ってるのよと言ったのをその時の声のトーンと一緒によく覚えている。ママだって実はネスやトレーシーが寝た頃に縫い物をして、俗に言う内職というのをしてる。うちはこういう家なのだ。
 そのパパが時々電話をするのは、大抵は口座にお金を振り込んだからそれを使ってくれといった内容が多い。
「ああ。ママに代われるか?」
「今は少し無理。風呂行ってる」
「そうか。まあ、ネスから弐万$振り込んだと言っておいてほしい」
「解かった。じゃあ、切るよ?」
「あ、ちょっと待った」
 電話の向こうでパパが慌てた声を出した。「ちょっとネスに話したいことがあるんだ」
「僕に?」呼び出しイコール何か悪いことしたかな。第一にそう考えてしまうのはどうも人間の性(さが)だ。
「ああ。ネスの口座、作っといたんだ」
「僕の?別にいいのに。口座ってお金を入れるところでしょ?いらないよ」
 ママから多少だがお小遣いをもらってるし、そのお小遣いはいつも大した使い道がなくて貯金してる。大好きな野球の試合は見に行けなくても近所の友達と野球が出来るし、グローブだってバットだって使えれば問題ない。どっちも数年前から大切に使ってる。
「いや、受け取ってほしい。せめてちょっとくらいパパらしくさせてくれよ」
「でも」覇気を入れてネスは何か言おうとしたが、すぐに萎(しぼ)んだ。パパらしいことってなんだよそんなことしなくていいから側にいてよ一緒に暮らそうよらしきことを言おうとした気がする。どう考えても駄々をこねてる子供にしかならない。だから言えなかった。
「……うん」
 断る理由がそれ以上浮かんでこず、ネスは不承不承頷いた。電話からはちょっとほくほくしたような声が返ってきた。
「とりあえず30$入れておいたから、好きなように使いなさい」「え、そんなに?」
 さっき頷いたばっかりなのに、既に少し体が拒絶した。30$といったらネスの中では300$くらいの価値だ。恐れ多い。
「ああ。ネスにはいつも世話になってるからな」
「?」何かあったっけ。
「ほら、」曖昧にパパは言葉を紡いだ。「あの、いつもパパが家にいないだろ?男はいつもお前一人だからさ。男という建前で押し付けられることもあるだろうし、悪いなと思って。30$はその賠償金と言ったら変かもしれないが、そんな金だ」
「でも」別にネスが悪いことをしているわけではないのだが、ちょっとそんな気がして次に何を言えばいいかさっぱり出てこなかった。
 電話の向こうでパパはどんな表情をしているんだろうとふと思った。こうやって慌てている息子を想像しながら困ったような笑ったような顔をしている気がした。ネスは自然と微笑をこぼしてしまう。「アリガト・・・」電話の先でパパが笑ってる気がした。
「キャッシュカードは明日の朝にでも家に届くだろう。キャッシュディスペンサーから引き出して自由に使いなさい」
「うん。解かった」
 そこでまた話がぶつ切れたので、ネスからまたねと声を掛けた。「ああ」もう既に口癖になった言葉を最後に聞いてやっぱりパパだと妙に安心してから、本当にまたねを言って切ろうとすると「ネス」とまた呼び止められた。
「ん?」
 問い返すと、とっても朗らかな声で「頑張れよ」と言われて向こうから勝手に電話を切った。
 そこで強制的に電話から語られることはなくなった。受話器となんとなくにらめっこを数秒してから元の位置に戻した。ママと同じようにパパも僕のこと解かってるんだなぁ。
「おい、ネス。終わったか?」手早い横槍が飛んできた。
「終わったよ」
 休む暇もなくネスは応対するのだった。

「よーし!お前が先頭に立つんだ!」
 門を出て数メートルの所でポーキーが切り出してきた。いつものことながら身勝手な提案だ。
「ポーキーが立てば」
 白けた表情で切り返すと「俺が前だとほら、ネスのお邪魔になるからさ」あ、自覚してる。「いざというときにはネスが俺を守らなきゃいけないもんな、うん」……。
 口をきゅっと引き締めてネスはチビと一緒に歩き出した。
「あ、待てよ」
 後ろからポーキーが声を掛けてきたが、知らん振りしておいた。
 犬のチビがいるから今回はショートカットが使えない。やがてでこぼこ道が薄っすらと途切れ、足元は草が茫々と生え出した。
 ぽつぽつと規則性のない木と夜空に輝く星を見ながらネスはのんびり歩いてる、つもりだが。
「おい、待てよ。早いって」
 後ろからポーキーがさっきから休憩を催促してくる。
「もう、さっき休憩したばっかりじゃん。置いてくよ」
 世の中にはかんっぺきに気が合わない奴が一人か二人いる。ネスにとっては絶対こいつだ。
「いこ、チビ」
 右肩に小さい時のネスがお小遣いをためて頑張って買ったハードメイプル製の、でも今はそろそろ朽ち果てそうなバットを下げてネスはチビとさっさと歩くことにした。
 ポーキーがぼやく声が聞こえた。その声もしばらく遠ざかって、ポーキーの姿が見えなくなってしまった。……しょうがないなぁ。声を出して溜め息をついてしょうがないので踵を返す。
「え、あんな奴の所に戻るのか?」チビがネスに問いた。「しょうがないじゃん」心の中で思った言葉をそのまま口に出した。我ながらお人好し。
 うわあああ!という絶叫がが多分、……した。よりにもよってポーキーだと思う。どうせ蛙とかいう生き物で驚いてるんだろうなと思いながら小走りでネスはポーキーの元へ行った。
 例の如くポーキーはもうすぐで引っ繰り返りそうだった。ネスを見かねた途端、足に急にしがみ付いてきやがった。
「ど、どどど、ど、ど」「どは解かったから何」「ど、毒蛇だって!」「毒蛇?」
 なるほど、確かに蛇がうろうろして時々きしゃーなんて威嚇してる……気がする。
 と思った次の瞬間、いきなりそいつが飛び掛かってきたではないか!「うわっ」すんでの所でそれを避けたが、ポーキーがしがみ付いてるせいで上手くバランスが取れずに蹈鞴(たたら)を踏んだ。
「お、おい、ネス!」
 慌てたポーキーの手が腕にまで来た。動き難いことこの上ない。
「こんな奴やっちまえよ!そのバットで!毒持ってるんだぜ毒!」先入観の毒はどうでもいいとして、相手の鋭利な牙に太股でもやられたらたまったもんじゃないけど。
「やだよ」ネスはきっぱりと言い捨てた。
「蛇だろうが虫だろうが人だろうが、殺したらもう終わりなんだよ。殴ったら痛いだろ。だから僕には出来ない」
 腕についたポーキーの手を離しながらネスは言い放った。そのネスの瞳は真剣そのもの。ネスの主張をポーキーに捻じ曲げることは何となく出来ない気がした。
「……けっ、馬鹿野郎」
 ポーキーは居心地が悪くなったのか唾を吐き捨てながら言った。
 珍しくポーキーから食い下がった。「だったらどうするってんだよ」
 ネスを試しているかのような目線を投げかけながらポーキーが言った。その挑戦、受けてやるよ。ネスは口元を上げた。
「もちろんっ」声に弾みをつけたと同時にネスは敵に背を向けた。いきなりの行動だったのでポーキーの手はネスの足からすり抜けてしまった。
「逃げるんだよっ」
 大きく腕を振ってポーキーを煽りながら、蛇がいた場所からどんどん離れていく。
「ちょっネス!俺のことも考えてくれぇ」
 チビが息を切らせながらもしっかりと着いてきた。なんだ、出来るじゃん、散走。
 しかし一番の問題は老犬よりも子供の方のようだ。
「おい!置いてくなよっ」という声が段々遠ざかってる気がする。ふと後ろを振り返ると実際結構遠かったので、ネスは大きく肩を落としてまた引き返した。
「チビはそこで待ってて」という言葉を残してネスはポーキーに手を貸す羽目になった。こけてるんだもん。
「おい。早く」つい語調が荒くなる。その声はかなり大きいはずなのにポーキーは焦点があまり定まってない。動転してる。再度呼びかけた。「おい、ポーキー!」
 そんなこいつと腐れ縁という言葉で簡単に縛れる関係を自分はどうして保っているのだろうなんてことを考えながら、内心謝りつつ念のため持ってきたバットを振るった。空振りのつもりだったが命中。別に自分は野球とかでも特別ボールが打てたりする人間じゃないのに、この時ばかりは自分でもホームランと言いたくなるくらい手応えがあった。罰が悪くなりながらも、ネスはポーキーの手を引いて逃げ出した。
 ポーキーがちょっと正気じゃなかったので、本当に噛まれて毒でも回り始めて麻痺し始めちゃってるのかと思ったが、どうやら腰が抜けてるだけのようだった。
「チビが待ってるんだから、早く行くよ」
 面倒の更に上を行くくらい、とにかくポーキーの相手をするのはネス自身疲れてるのに、何で構うんだろう。
 ……そうか、お人好しなのか。そんなの、解かってら。





   +おまけなあとがき+

   今回のこのお話でネスの性格がほぼはっきりしてますね。私のネスはこんなイメージです。ポーキーやチビもこんなイメージです(笑)。ポーキーはほとんどゲームと同じですね。チビはNo.1で言った通りこんなかっこよくないw
   それにバットについては良く解かりませんね……。wikipediaを参考にしたのですが……。ハードメイプル製と言われてもいまいちぴんと来ません。あはは……。
   そだそだ。ここで言う$はかなりアメリカと価値が低いもの、との認識で構いません。まあ日本円の十倍、アメリカの$の十分の一倍でしょうか。曖昧です。すません。
   それと、気付いてる方、いますかね?No.2のタイトルをひっくり返すと・・・あわわ。
   

   
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